年収1,000万円の手取り年収は案外少ないって本当?手取り額の計算方法も
家計/貯金
- 投稿日:2022.03.09
- 更新日:2022.06.29
日本のサラリーマンの平均収入は、400万円程度といわれています。そのようななかで、年収1,000万円は高収入に分類され、余裕のある生活を送っているイメージを持たれがちです。しかしこの金額は、あくまで税込年収です。日本の所得税は収入が多いほど税率が高くなる累進税率を採用しているので、高収入であればあるほど納める税金額も高くなり、手取り額が思ったほど残らないといった現実があることをご存じでしょうか?今回は、年収1,000万円の手取り額はどのくらいになるのか、また控除される税金や支払う社会保険料の目安などを具体的な数値を用いて解説します。この記事を読めば、年収1,000万円の生活レベルを把握することができますので、ぜひ自身の家計を見直す際の参考にしてください。
年収1,000万円の手取りは約790万円、月収だと約66万円
結論からいうと、給与収入が年収1,000万円の人(東京都在住、40歳未満、介護保険料負担なし、扶養なしと仮定)の手取り年収は約793万円、手取り月収だと約66万円になります。具体的にどのくらいの税金や社会保険料が引かれるかについて、以下で解説します。
まず、社会保険料(厚生年金保険料・健康保険料・雇用保険料)として年間123万円程度が徴収されます。そして社会保険料控除や給与所得控除、基礎控除を適用した後の課税所得金額は634万円程度となり、それに該当する所得税率は20%です。さらに控除額が42万7,500円適用されますので、所得税額は約84万円です。したがって、手取り年収は税込年収から社会保険料と所得税額を引いた約793万円となり、月額に換算すると約66万円となるわけです。
上の試算は独身の方の場合ですので、扶養家族がいる場合は配偶者控除や扶養控除が適用されるため、手取り月収は若干上がります。例えば年収1,000万円(東京都在住、40歳未満)で配偶者(合計所得金額が48万円以下と仮定)と16歳の子ども1人、合計2人を扶養していると想定すると、手取り年収は約816万円、手取り月収だと約68万円。独身の方に比べて、2万円ほど多くなります。
いかがでしょう?年収1,000万円と聞くと高収入に感じるかもしれませんが、実際の手取り額を聞くと、案外少ないなと感じた方も多いのではないでしょうか。
どうして年収1,000万円の手取りは少なくなる?
では、なぜ年収1,000万円の手取り額は少なくなるのでしょうか。その理由は上でも紹介したとおり、所得税は累進税率となっているからです。ちなみに所得税の税率は、下の表のとおり、課税される所得金額に応じて5%から45%の7段階に区分されています。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円以上 194万9,000円未満 | 5% | 0円 |
195万円以上 329万9,000円未満 | 10% | 9万7,500円 |
330万円以上 694万9,000円未満 | 20% | 42万7,500円 |
695万円以上 899万9,000円未満 | 23% | 63万6,000円 |
900万円以上 1,799万9,000円未満 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円から 3,999万9,000円未満 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
※出典:国税庁「所得税の税率」
例えば「課税される所得金額」が1,000万円の場合は、1,000万円×0.33-153万6,000円で計算され、所得税額は176万4,000円です。ちなみに500万円の場合は、所得税額は57万2,500円(500万円×0.2-42万7,500円)となり、課税される所得金額が半分になると、所得税額はそれ以上に減ることがわかります。したがって、世帯で考えるのであれば、1人で1,000万円稼ぐよりも、夫婦共働きで500万円ずつ稼ぐ方が最終的な手取り額は増えることになります。
年収1,000万円と世帯年収1,000万円の手取り年収は違う!?
上で説明した通り、夫婦共働きでそれぞれ年収500万円ずつ稼ぐと、一人で年収1,000万円を稼ぐ場合よりも、控除される所得税が少ないため手取り額が増えます。例えば年収500万円の人(東京都在住、40歳未満、扶養なし)の場合、手取り年収は以下のとおりです。
年収 | 500万円 |
社会保険料(年間) | 約70万円 (内訳) ・健康保険料(約24万円) ・厚生年金保険料(約45万円) ・雇用保険料(約1万5,000円) |
所得税額 | 約16万円 |
手取り年収 | 約420万円(月額約34万円) |
夫婦共働きでそれぞれ年収500円(世帯年収1,000万円)だと、合計で手取り月収が約70万円となり、年収1,000万円の手取り月収66万円に比べて、若干増えることがお分かりいただけるのではないでしょうか。もし夫婦でペアローンを組んで住宅ローンを支払っている場合は、それぞれが住宅ローン控除の対象となり税額控除が適用されますので、所得税や住民税の節税効果も高いといえます。
年収と手取り年収の違いは?
中には「年収」と「手取り年収」の違いが、よく分からないという方がいるかもしれません。ここからは、「年収」と「手取り年収」の違いについて詳しく解説します。
年収とは?
年収とは、1月1日~12月31日の1年間に会社から支払われた総支給額のことです。具体的な額は、給与明細の「総支給額」に書かれた金額(源泉徴収票は「支給額」の欄)となりますので、確認してみましょう。ここに記載されている額は、税金や社会保険料が引かれる前の金額で「給与収入」や「額面年収」、「税込年収」ともいわれます。
また、サラリーマンのなかには確定申告をする方もいるでしょう。その際、「収入」と「所得」の違いで、毎回迷う方も多いのではないでしょうか。サラリーマンのように毎月給料を受け取る人は、「年収」=「収入」であり、サラリーマンのみなし必要経費といわれる「給与所得控除額」が収入から差し引かれたものが「所得(給与所得)」です。給与所得控除額は、収入によって以下のとおり異なります。
給与等の収入金額 (給与所得の源泉徴収票の支払金額) | 給与所得控除額 |
---|---|
162万5,000円未満 | 55万円 |
162万5,001円以上180万円未満 | 収入金額×40%-10万円 |
180万1円以上360万円未満 | 収入金額×30%+8万円 |
360万1円以上660万円未満 | 収入金額×20%+44万円 |
660万1円以上850万円未満 | 収入金額×10%+110万円 |
850万1円以上 | 195万円(上限) |
※出典:国税庁「給与所得控除」
ちなみにサラリーマンで年収1,000万円の場合、給与所得控除は上限の195万円となります。つまり、1,000万円-195万円=805万円が給与所得です。
手取り年収とは?
手取り年収(手取り額)とは、年収から税金や社会保険料が引かれた後の金額です。給料明細でいえば「差引合計」の部分にあたり、実際に自分の手元に入るお金のことです。また、勤め先の企業が確定拠出年金制度を導入している場合は、税金や社会保険料以外にも、確定拠出年金の掛け金も合わせて引かれます。そのほか、財形貯蓄をおこなっている場合も、毎月設定した貯蓄額が差し引かれることになります。
給料から控除される税金や社会保険料の計算方法は?その金額の目安も
では、具体的に年収から控除される税金や社会保険料にはどのようなものがあるのでしょうか。その内訳を見ていきましょう。合わせて、控除される金額の目安についても解説します。
厚生年金
厚生年金の保険料は、毎月の給与(標準報酬月額)と賞与(標準賞与額)に共通の保険料率をかけて計算されます。現在の厚生年金保険料率は18.3%に固定されており、保険料は労働者と事業者の労使折半です。厚生年金の標準報酬月額等級は上限が32等級となっており、その等級によって保険料が決まる仕組みとなっています。上で計算した際の年収1,000万円の方の税込月収は約83万円ですので、等級表では一番上の32等級となり、11万8,950円の保険料を事業主と折半するため、自身が負担する保険料額は5万9,475円(月額)です。
健康保険
健康保険の保険料は、会社が加入している保険によって異なります。また都道府県によっても保険料率が異なり、東京都の協会けんぽ(全国健康保険協会)の場合だと健康保険料率は9.84%です。ただし、健康保険料についても、厚生年金保険料と同様に労使折半なので、実際の保険料率は4.92%です。協会けんぽの健康保険料は標準報酬月額に応じて50等級に分けられており、例えば年収1,000万円(月収83万円)の場合は40等級にあたり、保険料は8万1,672円(月額)です。この半分を負担することになるため、実際の健康保険料負担額は4万836円(月額)になります。ちなみに健康保険料は、扶養家族の数によって変わることはありません。
介護保険
40歳以上になると、介護保険への加入が義務付けられるため、それまでの健康保険料に加えて介護保険料を支払う必要があります。40歳から64歳までの人は介護保険第2号被保険者に該当し、その保険料率は標準報酬月額から算出します。ちなみに東京都における第2号被保険者の保険料率は1.8%となっており、上と同様年収1,000万円(月収83万円)の方が負担する介護保険料は7,470円、健康保険料と合算した4万8,306円(月額)です。
所得税
上で紹介したとおり、所得税額は「課税される所得金額」に所得税率を乗じ、控除額を引くことで算出します。課税される所得金額とは、給与収入から給与所得控除額を差し引いて求めた「給与所得金額」から各種所得控除額を引いた金額のことです。所得控除にはさまざまなものがあり、基礎控除や配偶者控除、社会保険料控除、医療費控除などが該当します。
所得控除額によって課税される所得金額が異なるため、おおよその目安として税額を計算すると、給与収入が年収1,000万円の人(東京都在住、40歳未満、介護保険料負担なし、扶養なしと仮定)の税額は以下の流れで求められます。
1.まず、給与収入から給与所得金額を求める
給与収入が1,000万円の場合、給与所得控除額は195万円のため、「1,000万円-195万円」の805万円が給与所得控除です。
2.給与所得金額から所得控除額を差し引き課税される所得金額を求める
今回のケースに該当する所得控除は「社会保険料控除」そして「基礎控除」です。社会保険料控除額は年間に支払った厚生年金保険料と健康保険料の合計額ですので、厚生年金5万9,475円+健康保険4万836円=10万311円(月額)× 12カ月=約120万円(年間)です(今回の計算では雇用保険料は考慮しません)。そして基礎控除額は48万円ですので、課税される所得金額は「805万円 -(120万円+48万円)」= 637万円です。
3.課税される所得金額から所得税額を算出する
課税される所得金額(637万円)に該当する所得税率は20%、控除額は42万7,500円です。したがって、所得税額は「637万円×20%-42万7,500円」= 84万6,500円です。
住民税
住民税の税額算出方法は所得税と異なり、所得に関係なく課税される「均等割」と、所得に応じて課税される「所得割」の合計額です。ちなみに均等割額は、県民税が1,500円、市民税が3,500円となっています(自治体によって異なる可能性があります)。そして、所得割額は課税所得金額に10%を乗じて計算します。所得控除額が所得税と異なるため、課税所得金額が全く同じにはなりませんが、仮に上のケース(課税される所得金額が637万円)の場合、住民税額は「637万円×10%+5,000」=64万2,000円になります。
日本にいる年収1,000万円以上のサラリーマンの割合は?
国税庁「令和2年分民間給与実態統計」によると、平均給与は433万円です。給与所得者数は5,255万人ですが、そのうち年収が1,000万円を超える人の割合は以下のとおりです。
年間給与額 | 人数 | 割合 |
---|---|---|
1,000万円超1,500万円以下 | 175万3,000人 | 3.4% |
1,500万円超2,000万円以下 | 38万4,000人 | 0.7% |
2,000万円超2,500万円以下 | 12万4,000人 | 0.2% |
2,500万円超 | 14万5,000人 | 0.3% |
この表のとおり、年間給与額が1,000万円以上の人は全体の4.6%に留まっています。ただし、平成28年では4.2%だったことから徐々に増えていることが分かります。
年収1,000万円稼げる職業はSE?研究員?
また同調査によると、1年を通じて勤務した給与所得者の1人当たりの平均給与額が一番高い業種は、「電気・ガス・熱供給・水道業」の 715 万円、2番目は「金融業・保険業」の630万円です。さらに、厚生労働省「令和2年賃金構造基本統計調査による職種別平均賃金(時給換算)」をみると、職種別平均賃金で見た場合、国家資格が必要な医師や公認会計士、税理士、法務従事者を除いては、一般的にSE(システムエンジニア)や研究者、コンサルタントなどが年収1,000万円を狙いやすい職業のようです。
出典:厚生労働省「令和2年賃金構造基本統計調査による職種別平均賃金(時給換算)」
年収1,000万円の手取り額を把握して、家計の見直しに役立てよう
収入を上げるために年収1,000万円を目標にしている方も多いかもしれません。しかし年収1,000万円といっても、手取り年収にするとそこまで多くないことがお分かりいただけたのではないでしょうか。単に収入アップを目指すよりも家計の見直しをし、さらに運用を取り入れるなどを考えながら着々と資産形成をした方が近道であり、老後の生活への不安も解消されます。今回紹介した内容を参考に、一度家計を見直してみることをおすすめします。
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この記事を書いた人
新井智美/トータルマネーコンサルタント
この記事を書いた人
新井智美/トータルマネーコンサルタント
コンサルタントとして個人向け相談(資産運用・保険診断・税金相談・相続対策・家計診断・ローン・住宅購入のアドバイス)のほか、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師(企業向け・サークル、団体向け)を行うと同時に、金融メディアへの執筆および監修にも携わっている。現在年間300本以上の執筆及び監修をこなしており、これまでの執筆及び監修実績 は2,000本を超える。
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