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「年金は60歳からもらった方が賢い」は本当?今から考えたい年金のこと

老後/年金

  • 投稿日:2022.03.09
  • 更新日:2022.03.25

自分の寿命に関してはわからない中で年金をいつからもらうのか決めることは非常に難しいことではないでしょうか。

今回は老齢年金の基本から始め、繰り上げ受給と繰り下げ受給の仕組みや繰り上げ受給した場合の注意点を解説します。

老齢年金の基本

年金制度は、簡単には理解できない複雑な仕組みであるため、よくわからないという方も多いのではないでしょうか。ここでは、老齢年金の基本的な仕組みや概要についてわかりやすく解説したいと思います。

老齢年金の受取開始は原則65歳から

年金は主に以下の2種類に分けられます。

● 全ての日本国民が加入する義務のある国民年金
● 会社員などが加入する厚生年金

今回は、「老齢基礎年金」と呼ばれる国民年金に関して解説します。

国民年金の保険料を支払う期間は20歳から60歳迄で、40年間加入し保険料を納付していれば65歳から満額受け取れます。

ただし、一定期間、保険料の支払いを免除されている場合や、未納があった場合はそのぶん年金額が減少する仕組みとなっています。

受け取れる年金額

日本年金機構の発表によると、平均的な収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)43.9万円)で、40年間就業した場合に受け取り始める年金(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金(満額))は以下の通りです。

令和3年度(月額)令和2年度(月額)
国民年金
(老齢基礎年金(満額))
65,075円65,141円
厚生年金※
(夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金額)
220,496円220,724円

※出典:日本年金機構「令和3年4月分からの年金額等について」

また、令和2年度から原則0.1%の引き下げとなり、受給額は微減しています。

しかし、実際は40年間納めている人は少なく、厚生労働省の発表によると2019年度の国民年金受給権者の平均年金月額は以下のようになっています。

2019年度の
平均受給額
国民年金厚生年金国民年金と
厚生年金の合計額
全体55,946円144,268円200,214円
男性58,866円164,770円223,636円
女性53,699円103,159円156,858円

※出典:厚生労働省「令和元年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」

年金は早くもらうほうがお得?

年金の繰り上げ制度を利用したほうが、長期間に渡り受給できるためお得なのでは?と考えている方に向けて、繰り上げ受給は得なのかどうかという点について解説します。

年金の繰り上げ受給

年金を早く受取ることのできる「繰り上げ制度」を利用した場合は、「繰り上げた月数×0.5%減額」されます。また、最大の繰り上げである60歳(0ヶ月)で繰り上げた場合は、30%減額されます。

65歳の時点で60,000円もらえると仮定した場合の60歳〜64歳までの減額率は以下の通りです。

年齢60歳61歳62歳63歳64歳65歳
受取倍率
(減額率)
70%
(30%)
76%
(24%)
82%
(18%)
88%
(12%)
94%
(6%)
100%
(0%)
月額受取額4.2万4.5万4.9万5.2万5.6万6.0万
年間受取額50.4万54.7万59.0万63.3万67.6万72.0万

また令和4年4月からは、繰り上げ率が月0.4%となり、60歳(0ヶ月)で繰り上げた場合は24%減額される予定です。

年金の繰り下げ受給

年金を遅れて受け取る「繰り下げ制度」を利用した場合は、「繰り下げた月数×0.7%増額」されます。仮に最大の70歳まで繰り上げた場合は、42%増額されます。

65歳の時点で60,000円もらえると仮定した場合、66歳〜70歳までの増額率は以下の通りです。

年齢65歳66歳67歳68歳69歳70歳
受取倍率
(減額率)
100%108.4%116.8%125.2%133.6%142%
月額受取額6.0万6.5万7.0万7.5万8.0万8.5万
年間受取額72.0万78.0万84.0万90.1万96.1万102.2万

また、令和4年からは75歳まで繰り下げられるようになり、その場合は84%の増額率となります。

どちらが得かは「損益分岐点」がポイント

誰もがいつ亡くなるかはわからないため、何歳からもらったほうがより得なのかはわからない事です。そこでポイントになるのが、どの年齢まで生きると得となるかを「損益分岐点(※)」の観点で計算してみることです。

損益分岐点を知るためには、自分の年金額を想定し、いくつかの年齢パターンで比較する必要があります。自分の年金額は、「ねんきんネット」で確認することができます。

※損益分岐点とは、受給額が一致する年齢のことで、経営などの管理会計上で用いられる考え方

今回は年金額を1年間120万円とし、60歳、65歳、70歳で受給した場合で比較してみましょう。

開始
年齢
年間
受給額
70歳75歳80歳85歳90歳95歳100歳
60歳84万840万1,260万1,680万2,100万2,520万2,940万3,360万
65歳120万600万1,200万1,800万2,400万3,000万3,600万4,200万
70歳170万170万1,020万1,870万2,720万3,570万4,420万5,270万

※年金繰り上げ率は月0.5%で計算しています

上記の通り80歳まで生きるのであれば、70歳から受取を開始した方が60歳で受け取るよりも多くなることがわかります。ただ、人によってこの損益分岐点は異なるため、自分が受け取れる年金額からシミュレーションし、何歳で受け取るのがよいのか検討してみましょう。

繰り上げ受給をする際の注意点

年金の「繰り上げ受給」を利用する際には、以下のような注意点があります。

● 一生減額された年金を受け取ることになり、繰り上げ請求した後に裁定の取消しができない
● 寡婦年金を受給している場合、老齢基礎年金を繰り上げすると寡婦年金は失権する
● 受給権発生後に初診日があると、障害基礎年金が受けられない
● 国民年金の任意加入被保険者になれない
● 65歳前に遺族年金の受給権が発生した場合は、老齢基礎年金と遺族年金のどちらかを選択しなければならない

まず、一生減額された年金を受け取ることになり、請求後に裁定の取消しはできません。

また、10年以上婚姻関係があり、かつ本人が10年以上保険料の納付をしていた場合の夫を亡くした方が、60歳から65歳まで受け取ることのできる寡婦年金の受給権者が老齢基礎年金を繰り上げ請求すると寡婦年金は失権してしまいます。

ほかにも、受給権発生後に初診日があるときは、障害基礎年金が受けられない事があります。また、65歳前に遺族年金の受給権が発生した場合は、老齢基礎年金と遺族年金のどちらかを選択する必要があったり、国民年金の任意加入被保険者になれないなどします。

そのため上記の点を踏まえて、繰り上げ受給を検討することが大切です。

考えておきたいのは60歳以降のライフプラン

繰り上げ受給はただ期間が延びるのではなく、年金の受給額が減額されるため、長生きすると65歳で開始するより少なくなってしまうこともあります。

元気であれば働き続けることも考えたいとはいえ、まだ60歳定年の会社が多いのが現状です。そこで大切になるのが、60歳以降のライフプランを今のうちから検討しておくことです。

定年を60歳としている企業は約8割

厚生労働省の平成29年度「就労条件総合調査」によると、定年制を定めている企業は95.5%で、定年制を定めている企業のうち一律に定年制を定めている企業は97.8%に上ります。

また、定年を60歳とする企業が79.3%、65歳とする企業が16.4%となっています。

定年
年齢
60歳61歳62歳63歳64歳65歳65歳以上
割合79.3%0.3%1.1%1.2%0.3%16.4%16.4%

また、定年制がある企業で勤務延長制度もしくは再雇用制度があるのは全体で92.9%。

内訳としては、勤務延長制度のみは9.0%で、再雇用制度のみが72.2%、両制度併用している企業の割合は11.8%です。

2021年4月からは70歳までの就業機会の確保として「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」が一部改正されましたが、あくまでも努力義務とされています。

※出典:公益財団法人 生活保険文化センター「定年の年齢は何歳が多い?」

老後に向けて考えておきたいお金のこと

60歳以降に働き続けることを選択し、再雇用制度を利用しても収入が減ってしまうこともあります。

やはり、保険、貯蓄、退職金、資産運用など、老後に向けてさまざまな方法でお金を管理したり、増やす方法などを模索することが大切ではないでしょうか。

自分に合った年金の選択をしよう

年金の繰り上げ受給や繰り下げ受給は、どちらを選択すればよいという正解はありません。人によって寿命や働きたいと思う年齢、老後の過ごし方、現在保有している資産など、すべて異なるためです。

自分に合った年金受給の選択をし、老後の資金について不安や解決しておきたいことがあるなら、専門家などに相談してみるのも一つの手段となります。これを機に、年金だけでなく家計の見直しや資産形成を考えてみてはいかがでしょうか。

中島 翔/CWC株式会社代表取締役

この記事を書いた人
中島 翔/CWC株式会社代表取締役

この記事を書いた人
中島 翔/CWC株式会社代表取締役

日本証券アナリスト、ファイナンシャルプランナー。 あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワード、オプショントレーディングに従事。その後国内大手仮想通貨取引所Coincheckでトレーディング業務、新規事業開発に携わり、NYのブロックチェーン関連のVCを経てCWC株式会社を設立。